契約先と請求書の送付先が異なる場合、どの情報を登録すればよいのでしょうか。顧客情報の整理を始めると、意外な問題が見えてきます。
新しい請求システムへ、既存の顧客情報を移行することになりました。
会社名や住所、担当者の一覧があれば、登録自体はそれほど難しくなさそうです。
ところが、請求書の送付先を確認し始めると、一つ気になることが出てきます。
同じ会社でも、契約を担当した人と請求書を受け取る人が違う場合があります。営業管理システムには営業担当者の名前が登録されていても、請求書の送付先までは分からないかもしれません。
現在、副業先で請求システムの導入を進めています。第1回では請求業務の全体像、第2回では商品マスタについて書きました。
今回は、請求業務のもう一つの基本となる「顧客マスタ」について考えてみます。
1. 顧客一覧があるのに、なぜ請求先が分からない?
請求システムを導入するとき、まず必要になるのが顧客情報です。既存の販売管理システムやExcelから顧客一覧を取り出し、新しいシステムへ登録します。
会社名、住所、電話番号、担当者名。これだけの情報がそろっていれば、顧客マスタは完成するように思えます。
しかし、実際の請求業務を考えると、少し事情が違ってきます。
例えば、契約書には本社の住所が書かれていても、請求書は別の部署へ送るよう指定されていることがあります。会社の代表メールアドレスに送ればよいとも限りません。
顧客情報は確かに存在しています。それなのに、請求書を誰に送るのか判断できない場合があるのです。
2. 同じ会社なのに、請求書の送付先が違う
企業向けのクラウドサービスを販売する会社を考えてみます。
A株式会社と契約し、月額30,000円のサービスを提供しています。
関係者を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 担当する部署 |
|---|---|
| 契約先 | A株式会社 |
| 契約の窓口 | 営業部 |
| 請求書の送付先 | 経理部 |
| サービス利用部門 | 情報システム部 |
※会社名・金額は説明用の仮定です。
営業担当者から見れば、取引先はA株式会社という一社です。しかし、経理担当者から見ると、請求書を送る相手は営業部ではありません。
さらに、契約書に関する連絡は営業部、サービスの利用状況に関する連絡は情報システム部というように、内容によって窓口が変わることもあります。
会社名と住所は正しく登録されています。それでも、誰に何を送るのかまでは分かりません。
では、こうした複数の窓口を、顧客マスタでどう扱えばよいのでしょうか。
3. 担当者を登録できても、請求先は自動で決まる?
ここで考えたいのが、顧客情報と担当者情報を分けて管理する方法です。
顧客情報には会社名、住所、顧客IDなどを登録します。一方、担当者情報には氏名、部署、メールアドレスなどを登録します。
請求システムによっては、一つの会社に複数の担当者を登録できます。これなら、営業部と経理部、それぞれの担当者を区別して管理できます。
ただし、担当者を登録しただけで、請求書の送付先まで自動的に決まるとは限りません。
どの担当者を請求先として指定するのか。その設定が顧客単位なのか、契約単位なのかも、システムによって異なります。
つまり、顧客情報を登録することと、請求先を決めることは別の作業なのです。
ここまで整理すれば、登録時点では正しく請求できそうです。しかし、顧客情報には、もう一つ考えておきたい問題があります。
4. 昨日まで正しかった顧客情報が、今日も正しいとは限らない
例えば、請求書を送付していた経理部の担当者が退職したとします。
営業担当者は、その変更を知っているかもしれません。しかし、請求システムの情報が更新されなければ、翌月も以前のメールアドレスに請求書を送ってしまう可能性があります。
担当者が変わるたびに、経理担当者が個別に確認するのでしょうか。それとも、営業担当者が変更情報を登録するのでしょうか。
請求システムには、担当者情報を追加・編集する機能があります。しかし、変更があったことを誰が把握し、誰が更新するかまでは、システムを導入するだけでは決まりません。
顧客マスタは、一度登録したら完成するものではないのです。
そして、既存システムから移行するときには、登録前のデータにも注意が必要になります。
5. CSVで一括登録できる。でも、移行するデータは正しい?
最近の請求システムには、顧客情報をCSVで一括登録できるものがあります。
大量の顧客情報を一件ずつ入力する必要がなくなるので、便利な機能です。
ところが、移行するデータに次のような情報があったらどうでしょうか。
- A株式会社
- 株式会社A
表記は異なりますが、同じ会社かもしれません。
このまま登録すると、同じ会社が別の顧客として管理され、契約情報や請求履歴が分散する可能性があります。
一方、同じ会社でも、支店や事業所ごとに請求先を分けている場合があります。その場合は、単純に一つの顧客へ統合すればよいわけではありません。
ここで初めて、顧客をどの単位で管理するのかという問題が出てきます。
会社単位なのか、事業所単位なのか。それとも契約や請求先を別に管理するのか。
CSVでデータを移行することはできても、どのように管理するかまでは決めてくれません。
これまでExcelや担当者の判断で補っていた部分を、新しいシステムではどのように扱うのか。登録作業の前に整理する必要があります。
6. まず一社だけ、請求先を確認してみる
では、顧客マスタを整理するには、何から始めればよいのでしょうか。
すべての顧客情報を一度に見直すのは大変です。そこで、まず一社だけ選んでみます。
確認するのは、次のような項目です。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 顧客 | どの会社と取引しているか |
| 契約先 | 契約の相手は誰か |
| 請求先 | 請求書をどの部署へ送るか |
| 担当者 | 誰が請求書を受け取るか |
| 送付方法 | メールか郵送か |
| 更新担当 | 変更時に誰が情報を直すか |
これらが、現在のシステムや契約書、Excelのどこに登録されているかを確認します。
一社の情報を整理するだけでも、必要な情報が不足していることや、複数の場所で別々に管理されていることに気づくかもしれません。
そのうえで、新しい請求システムのどの項目に登録するのかを考えれば、設定方法も判断しやすくなります。
まとめ:顧客マスタは、単なる取引先一覧ではなかった
会社名と住所を登録すれば、顧客マスタは完成する。
最初は、そのように思いやすいものです。しかし、請求業務を考えると、契約先と請求先が違うこともあり、担当者も途中で変わります。
さらに、既存データの重複や、部署ごとに異なる管理方法にも対応しなければなりません。
ここで大切なのは、顧客マスタは取引先を一覧にするためだけでなく、正しい相手に請求するための基礎情報でもあるということです。
まずは、現在取引している顧客を一社選び、契約先と請求書の送付先が一致しているか確認してみてください。
それだけでも、新しい請求システムに登録する前に整理したいことが見えてくると思います。
請求業務の改善をお考えの方へ
顧客情報や商品情報を整理しても、請求ルールが担当者の経験や記憶に頼っていると、毎月の確認作業はなかなか減りません。
請求管理の見直しから入金管理、未回収の防止まで、業務改善・システム化の支援内容をまとめています。
参考にした公式・参考情報
- Scalebase「顧客管理の業務効率化」
https://scalebase.com/operational-efficiency/customer-management - Scalebase「顧客情報のCSVインポートが管理画面上からできるようになりました」
https://scalebase.com/news/update20220802



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